慈願と悲願

和尚さんのさわやか説法 平成15年1月号 曹洞宗布教師 *****
 
常現寺住職 高山元延

常現寺、ホームページ開設によって、ページをお読みいただく皆様、この度は、誠にありがとうございます。 我が郷土、八戸は、昨年十二月一日、東北新幹線盛岡—八戸間が開通し「はやて」の初登場で話題いっぱいです。そこで、私もホームページを開通させて話題いっぱいにしたいと思っています。

 さて、私は昨年この新幹線列車の名称が「はやて」号と決定した時、まっさきに、この歌を思いだしました。

 —そう— —それは—
 「月光仮面」の歌だったのです。 あの月光仮面が時空を超えて帰ってきたのだ。と・・・。

 ♪どーこの誰だか
  知らないけれど
  誰もがみんな知っている。
  月光仮面のおじさんは、正義の味方だよい人だ
  はやてのようにあらわれて
  はやてのように去っていく
  月光仮面は誰でしょう
  月光仮面は誰でしょう  (註)

 中年世代の方々にはなつかしく、思わず口ずさんだのではないでしょうか。
 「なんで月光仮面の歌を歌わなきゃなんないんだ」とぼやかれた方には申し訳ありませんでした。
 あの新幹線開通の日、月光仮面の衣装に身を包んだどこの誰かが、突如まさに「はやて」のように現れて、テープカットやくす玉を割って、また「はやて」のように去っていったら、おもしろかっただろうなぁーとTVで開通式を見ていた私は、そう思いました。
 「なんと不謹慎な」と思われた方には、またまた申し訳ありませんでした。
 どうも今回はホームページ開設から誤まりっぱなしであります・・・。

 「悲願の新幹線!!青森県への開通!!」そう叫び続けること久しい。
 基本計画決定から三十年、当初の大宮—盛岡間開業から二十年。盛岡以北にはもうこないんじゃないか。ミニ新幹線だ、いやフル規格だ、予算はどうすると幾多の試練と屈曲を経て、やっと八戸まで直進したのです。
 この間、青森県の政治を担う代議士、知事、市長さん始め、地元商工会関係者JR関係者、多くの関係者の熱意と願望は、いかばかりであったでしょうか。

 「一人の願いは、皆なの願い」
 「皆なの願いは、たった一つの願い」

 —まさに— ONE FOR ALL
       
 ALL FOR ONE の悲願だったのです。

 この「ONE FOR ALL」の言葉を知ったのは、今から約二十年前、京都市立伏見工業高校ラクビー部が全国大会で初優勝し、そこまでに至る「ツッパリ生徒と泣き虫先生」の軌跡がドラマ化された時でありました。
 泣き虫先生こと教師山口良治が、伏見工業高校に赴任した時、その高校の悪名は京都中に鳴り響いていたといわれます。 暴走行為によるバイクの事故は京都一。校内の廊下をバイクが走り回り、昔はやったリーゼントヘアーにパンチパーマ。かつあげに傷害事件は跡をたたず、周囲の高校生はもちろん大人まで、その通学路を避け、伏見工業の生徒との接触を恐れていたという。 その名うてのツッパリどもの温床が、このラクビー部だったのだ。
 そのツッパリどものツッパリ精神をラクビーに向けさせ、一個の人間としての感情を発露した「泣き虫先生」の涙は、やがて、悲願の全国優勝を果たし、高校ラクビー界に伏見工業ありと言われるまでになったのです。

 その彼らを支えた原点ともなる言葉が
 「ラクビーは、十五人がひとつになって初めてボールが進む。」

 「一人はみんなのために、みんなは一人のために。」
 「オール・フォー・ワン。ワン・フォー・オール。それがラクビーだ!!」というのです。
 一つのことを成就させる。やれないことをやりとげる。0からの出発というものは、一人だけでは成し遂げることはできない。
 だからこそ皆なの一致した協力は不可欠なものである。

 —そして—
 その成し遂げるということは、皆なのためになすことでもあるのだ。
 このことはスポーツのことばかりではなく勉強でも、仕事にも言えることであり、はたまた家族のあり方、仲間や現在の社会のあり方にもいえることである。
 一人の存在は、全体の存在の為のものであり、全体の存在は、一人の存在の為であるのだ。
 そのことは、今まで何回か述べてきた「悲願」という言葉に通じるものがあります。
 悲願とは、普通一般的には、どうしてもやりとげ思っている悲壮なる願い」といういみであるが、もう一つは、「仏、菩薩が衆生を救おうとする誓願であり、仏の慈悲の心から出た願い」という仏教的意味もあるのです。
 つまり前述したように「ワン・フォー・オール」の願いであり、「オール・フォー・ワン」の願いなのである。
 悲願とは、慈願の意味も内包している。悲壮なまでの願いと、他を慈しみ、思いやる願いということなのだ。

 私は、八戸駅の東西通路で黄色いウェアーで観光や、はたまた八戸を訪れる人達を迎える「おもてなし隊」の方々は、まさにこの「慈願」の行動であると思っています。
 「おもてなし隊」の皆なは、一人の観光客のために、まさに「ALL FOR ONE」の心であり
 そして、その心は、一人の観光客から、皆なへの心へと結ぶ。
 このことも「ONE FOR ALL」なのだ。
 さあ「さわやか説法」の読者の方々も、これからは、「ワン フォー オール。オール フォー ワン」の心で、すごしてみませんか。

 今回、ホームページを読んで下さった皆さまにとってよき年であることを私は祈っています。
 それが和尚としての私の慈願であり、ワン フォー オールの心であるのです。

県外の皆さま、「はやて」にのってはやてのように八戸に来てみませんか。「おもてなし隊」がおもてなしをしてくれますよ。ただし「夜」のおもてなしは各自でどうぞ。

合掌 

(註)この月光仮面は記憶をたどったものであり、間違っているかもしれません。作詞者の方には御無礼の段、お許し下さい。

 参考 プロジェクトX リーダーたちの言葉 今井 彰著

 

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