花咲か爺さん物語 パート1

和尚さんのさわやか説法170 平成17年4月号 曹洞宗布教師
常現寺住職 高山元延

 私は四季の中で、一番「春」が好きである。
 晴れた日、暖かな春風と陽光うららかな日を浴びると、爽やかな気持にもなるし、何故かしら心がウキウキとしてくるのである。
 その春風と陽光が運んでくる「春の匂い」がたまらなく私は好きだ。
—そして—
 その風と光に誘われて、桜の花が芽吹き、やがて蕾がふくらみ、開き、桜花爛漫
(おうからんまん)ともなると、もう居ても立ってもいられなく、桜の木の下で、思いっきり深呼吸したくなるのだ。
—てなことで—
 今回の「さわやか説法」は、桜にまつわる代表的な話である「花咲
(はなさ)か爺(じい)さん」の物語をしてみたいと思う。
 
この物語に登場するメンバーは、優しい善良な爺さんと婆あさんに、かたや欲張りでいじわるな爺さん婆あさんと「昔話」には、よくあるパターン。
 そして、最も重要なのが、「しろ」というワンちゃん、犬なのだ。
 私は、この「しろ」が「花咲か爺さん」物語の主役ではないかと思っている。善良な爺さんではないのだ。
 それと、この登場する犬の名前が、何故「しろ」でなければならなかったのか。
「くろ」とか、私の寺で飼っている「コロ」という名前ではいけないのか。
 この疑問が、この「花咲か爺さん」物語の根底にあるテーマなのだと、私は私なりに勝手に仏教的解釈をしてしまった。
—あの犬は、絶対に「しろ」という名前でなければならない—と。
 

「花咲か爺さん」のストーリーは、大体こうである。
 
 昔むかし ある山里に、やさしいお爺さんとお婆あさんがおったそうな。
 ある日、お爺さんが畑を耕していると、欲張りなとなりの爺さんの怒
(ど)なり声が聞こえてきた。
「こりゃ。人の畑に入
(はい)りよって!!」
「キャン キャン」
走ってきた小犬を、お爺さんが抱き上げると、となりの爺さんが追いかけてきて、
「やい、その犬は、オラの畑を荒らしよった。こらしめてやる!!」
 小犬は、お爺さんの腕の中で、ブルブルと震えている。
「お願いじゃ。許してやってくれ。」
「駄目じゃ、ぶったたいてやる!!」
 となりのじいさんは怒って行ってしまった。
 
 やさしいお爺さんとお婆あさんは、この小犬が可愛いくて、飼ってやることにした。

 小犬は、しろと名づけられ元気に走り回りどんどん大きく育っていった。
 ある日のこと、しろはお爺さんの着物をくわえては引
(ひ)っ張(ぱ)り、どこかへ連れていこうとした。
「こりゃ、しろ!!どこへ行くんじゃ」
 しろは、お爺さんを背中に乗せ、裏山のてっぺんまでくると、
「ここ掘れ、ワンワン。」「ここ掘れ、ワンワン。」
と、吠えるのであった。
 お爺さんは、不思議に思いながらも、土をザックザックと掘ると、何やら鍬にぶつかるものがあった。
「うん?なんじゃあ こ、これは。こ、小判じゃあ」
 お爺さんは腰を抜かしてしまった。
 その夜、お婆あさんに小判の山を見せては
たまげてしまった。しろがここ掘れワンワンと吠えるもんじゃからな」
—ところが—
 そこへ、となりのじいさんとばあさんがやって来て、障子の穴からのぞいていたのであった。
 次の日、いやがるしろを無理やりひっぱっていくと、背中にまたがり、
「ホレ!!小判の山へ連れていけ!!」
 しろはふらふらになって、とうとう倒れてしまった。
「ほう。ここに小判があるのじゃな」
 となりのじいさんは思いっきり、鍬を立てると、ガチと固いものにぶちあたった。
「出た、出たぞ!!うっはっはっは。」
喜んで手を出すと、なんとそれは、蛇や瓦礫の入った瓶
(かめ)だった。
「よくも、だましたな」
怒ったじいさんは、とうとう、しろを殺してしまったのだ。
 
 優しいお爺さんとお婆あさんは、とても悲しんで、しろの墓を建てて、そのそばに小さな木を植えたのだ。
 すると、その木は、ずんずんと大きくなって両手でかかえられない程に成長した。
 ある日、二人は墓にお花を供えようとすると、その木が何か言うのであった。
「臼
(うす)にして ワンワン」「臼にして ワンワン」
「こりゃぁー、しろの声だ

 二人は、その木で立派な臼を作ると、餅をついた。
「ぺったん。ぺったん。ぺったんこ」
 やわらかくて美味しそうな餅が出来た。
—ところが—
 その餅がキラキラ光るのだ。
「あら、お爺さん。なんでしょう。」
「はや〜、不思議な餅じゃ

 それを、二人はちぎって小さく丸めると、ますます金色に輝き出した。
「こっ小判じゃ
ー」
「餅が小判になってしまたぁ」

—そこへまた—
 となりの欲張り爺さんと婆あさんが顔を出して
「ぺったん ぺったんと音がするもんで、来てみりゃ、何ともまあすげぇ、臼じゃ」
「餅の小判が、ザックザックとつける臼じゃて。」
 そこで、となりの爺さん、「その臼をワシにかさんかい。」と、強引に持ち去ろうとした。
「これは、しろの形見じゃから。」
と、言うのもおかまいなしに、欲張り爺さんは、自分の家に持っていった。
「しめしめ、今日から俺達は金持になれるぞぉー」
「なんたって、つけばつくほど、小判が出来るんじゃからな。」
—何とも、現代のニセ札作りの犯人と同じシチュエーションだ—

さっそく、となりの爺さんと婆あさんは日頃にない協力ぶりで
「ぺったん ぺったん ぺったんこ」
 餅がつき上がるのも待ちきれず、臼をのぞいてばかり。
「じいさん、ちい〜とも、餅の色が光らんなぁ」
「そうじゃ、小さくちぎって丸めりゃ、いいんだ」
—さて—
 その餅は、どうなったのか。となりの欲張り爺さん婆あさんは、小判をつき上げることに成功したのか。
—そして—
 この昔話は、さらにどのように展開していくのか。
 それは、次回のお楽しみにして今号は、これにてオシマイ、オシマイ。

 それでは皆さん。
よいお花見を…。
くれぐれも 花咲か爺さん改め、「花酒
(はなさか)じいさん。ばあさん」にならないようにお気をつけて……。私は、どうかというと、
「ここ惚
(ほ)れ ワンカップ」「ここ惚(ほ)れ ワンカップ」と、花と酒に酔い女性に酔うことでしょう。

合掌

   ※参照 
      日本昔ばなし101 講談社発行


 

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