新春童話説法
「初夢長者」物語

和尚さんのさわやか説法177 平成18年1月号 曹洞宗布教師
常現寺住職 高山元延

 新年 明けまして おめでとうございます。
 皆様にとりまして、この新しき平成十八年がよき年であり、幸せが「ワン、ワン」来るような年であることを祈念しております。
—てなことで—
 新春の「さわやか説法」は、皆様が幸せな夢を見れるようにと『初夢長者
(はつゆめちょうじゃ)』の物語であります。
 ところで、皆様は「初夢」は、いつ見る夢か御存知であろうか。
 それは、元旦の夜に見て、『二日の朝』目覚めた時、ちゃんと覚えている「夢」のことである。
 元旦の朝、見た夢は、去年「大晦日」の夢なんです。
—それでは—
—はじまり 始まり—
 むか〜しむかし、ある村に一人の長者様がおったそうな。
 ある年の元旦の夜のことじゃった。
 長者様は、家で働いている人達や家族をいろりの前に集めて、一杯機嫌で、こんなことを言った。
「今夜みる夢は、初夢じゃ。その初夢を明日は、このワシに話してけろ。」
「その夢ば、一分
(いちぶ)で買うだで」(現代価格で一万円としよう)
「えっえー。長者様!!そりゃ本当で」
 長者様は、皆に「お年玉」をやろうと思っておもしろおかしく話した。
 皆は、一斉に布団にもぐり込み早めに眠りについた。
—二日の朝になった—
「さあ〜て(^v^)みんな。どんな初夢を見たのか順番に聞かせてけろ」
 皆は我さきと話し始めた。
「そりゃ!!いい夢じゃ」
「はい!!お年玉!!」
 長者様は、にこにこしながらお屠蘇気分で聞いては面白がった。
 そして最後に、年末に入ったばっかりの小僧の番になった。
「さぁ!!お前でおしまいじゃ。小僧!!どんな初夢見たんじゃ」
 長者様はもうお屠蘇でまっ赤になって御機嫌で聞いた。
—ところが、小僧は—
「おら、言わねェ。」と黙りこくった。
「なに〜っ<`ヘ´>言えねェ〜とな!!
番頭さんが叱った。
「まあまあ。それなら小僧、二分
(にぶ)やろう!!」
皆はどよめいた。
「オラも、しゃべらねェばいかった」
でも、やっぱり小僧は
「いいや、なんぼもらっても、オラ話さん!!」
と強情を張った。
「よ〜し。それなら五分!!なに、それなら七分、いや一両ではどうじゃ」
 話せないとなると、何が何でも聞きたくなる。長者様の顔は、お酒の酔いが取れて真っ赤から真っ青になって、お年玉の額をふやした。でも、小僧は言うことをきかなかった。
 とうとう長者様は怒り出し、「むっむむ!!でっ出ていけェー」
 番頭さんも他の者達も怒り出し、小僧を箱の中に押し込め
「どうじゃ!!これでも言わぬか」と釘
(くぎ)を打ちはじめた。
「いやじゃ!!言わん!!」
(現代なら、不当解雇、虐待。監禁罪ではあるが、まぁ昔話として聞いてけろ)
—これから物語は展開していくのだから—
 そして、長者様はじめ皆は、箱をかついで川へ流してしまった。
 小僧が入った箱は、川を下り、やがて海へ出て、どんどんと沖へ沖へと流れていった。
 あっちへどんぶら、こっちへどんぶらと、十何日も流され、やっとある小島に漂着した。
—ところが、そこは—
なっ何と、鬼ヶ島だったのだ。
「こりゃぁー。何だろ」
鬼達が集まって来て、浜辺に打ち上げられた箱を開けてみると、やせ細った小僧が出てきた。
「あれまぁー。人間じゃぁ」
 鬼達は、ガヤガヤ騒ぎながら、鬼の大将のもとへ運んでいった。
「お頭
(かしら)!!人間の子どもじゃ!!」
「こんなに、やせ細っていたんじゃ、今は喰えん」
「もうちょっと太らせてから丸焼きでもしよう」
 鬼の大将がこう言ったものだから、小僧は岩屋の牢に入れられ、毎日たっぷりの御馳走を食べさせられた。
 おかげで小僧は体力を回復し、まるまる太っていった。
 そして、いつの間にか食べ物を運んでくる鬼の少年と仲良しになったのだ。
「ねェねェ。大将のところには沢山の金銀財宝の宝物があるんだろうねェ」
「うん、あるよ。その中でも大将が大事にしているのが、三つあるんだ」
「一つは『千里棒
(せんりぼう)』といって『千里!!』と叫ぶと千里すっ飛ぶ棒さぁ!!」
「次は『生
(い)き棒(ぼう)』といって死にそうな者でもこれでなでると、すぐ生き返る。三つめは『聴(き)き耳棒(みみぼう)』といって鳥や動物達の話声が何でも分かるのさ。」
「すごいだろぉー」
そうこうしているうちに、まるまる太った小僧は鬼の大将のもとに連れだされた。
「ほう。まるまる太ったのぉー」
 小僧は鬼ににらまれ圧倒されながらも、こう言った。
「たっ大将!!ちょっと待ってくれ!!オラ、この島に来て、今までメシを運んでくれて友達となった鬼の少年と賭
(かけ)をしたんだ」
「どんな賭
(かけ)じゃ」
「それは、竜宮城と極楽と、この鬼ヶ島とでは、どこの宝物が一番立派じゃろうかと」
「ふう〜ん。それで」
「オラ!!鬼ヶ島だと言っただ」
「おー。そうか、そうか」
「だから、オラ、丸焼きにされる前に一回それを見てみたいんじゃ。」
「わかった。よし見せてやる。誰か俺様の一番大事な宝物を持ってこいや」
「ヘェ〜い。」
「どうじゃ。すごいだろう」
 大将は鼻を高々にして小僧の前に広げた。
「これが自慢の宝じゃ。生き棒に、聴き耳棒に、千里棒じゃ。」
「これで満足したか!!小僧よ!!」と、大将が言い終わらないうちに小僧は、三つの宝物の棒を手に持って叫んだのだ。
「千里
(せんり)千里(せんり)」と。
すると、なんと、千里棒は、小僧を乗せるとあっというまに千里の彼方へ飛んでいってしもうた。
 鬼の大将は「この小僧!!」と叫んだが、もうその時は、飛んでいったあとだった。
 大将は、悔しくて悔しくて大粒の涙をぼたぼたとこぼして泣き出してしまった。

 西の国、千里向うまで飛んでいった小僧は、カラスの会話を聴き耳棒で聞いた。
「カーカー。西の長者の一人娘が重い病気で死にそうだ」
 そこで、小僧は、その家を訪ねてみた。
「誰か、ワシの娘の病気を治してくれんかの」
「もし治してくれる者がおったなら、娘の婿にしてやってもよいし、この長者の跡取りにしてもよいのじゃ」
 西の長者は、オロオロするばかりであった。
「私が、娘さんの病を治してあげましょう」
「なに!!お前がかぁ」
長者様はびっくりした。部屋に通されると、小僧は、あの生き棒を取り出して娘のオデコにあてた。
—すると、なんと—
娘の顔色がみるみるよくなっていくではないか。
「こりゃ、たまげた!」
 やがて娘の病は回復し、もとのように元気で明るい笑顔がもどった。
「娘の病気が治ったのは、あなた様のおかげじゃ」
「約束通り、どうか娘の婿になって、ワシの跡取りとなってくれ」
 それはそれは、何とも例えようのない美しい花嫁が隣に座っていて、小僧に優しく微笑
(ほほえ)んでくれる。
「こりゃ、夢じゃ」
「あの時見た初夢と同じじゃ」
「あの時、金の大黒様の夢を見て、大黒様は決して、ワシが夢に現われたことは言うなよ」と、おっしゃった。
「オラがこんなに幸せになれたのもあの時の『初夢』のおかげじゃ。」
「そんで誰にも話さなかったからだ。初夢は人に話したら、それっきりじゃものなぁ」
 小僧は花嫁と一緒に海に向かって、鬼の三つの宝物を沖に流した。
「鬼さん、ありがとうよ」ってね。
 こうして二人はいつまでも仲良く愛し合い、それから皆はあの小僧を「初夢長者」と呼ぶようになったとさ。
 めでたし めでたし

 皆さん!!どうでしたか。「初夢」は、必ず誰しも見ます。ただ朝起きた時、覚えているか、いないかです。
 覚えていたら決して人に話さず自分の心の中に暖めていて下さい。
 きっとその夢は実現しますよ。あなたの今年の夢が…。



合掌

 (注)日本昔ばなし101
    講談社発行 参照
     


 

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