お盆特集号 昔ばなし 朝の連ドラ版「ねずみの嫁入り」
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和尚さんのさわやか説法256
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延 |
今年の夏は猛暑であり、南からの湿った風が日本中に吹いてきている。
—さらにまた—
「お盆」は、ことさらに暑くて、熱い。
お寺にとって「お盆」は、季節的に暑いというよりも、行事として熱くなるのである。
どうぞ、皆様にはよきお盆をお迎え下さるように願っております。
—てなことで—
「さわやか説法 お盆号」は「NHK朝の連続ドラマ」仕立ての「昔ばなし」をすることにしたい。
実は、八戸の夏の風物詩ともいえる、長者山境内で毎年開催されているのが「森のおとぎ会」である。私はそのちょうど中日(なかび)の七月二十二日が出番で実演をさせていただいたことによる。
—そこで—
もう一回、その時、その場で語った物語を練り直して再現したいのである。
—というのも—
森のおとぎ会の会長であり、我が郷土、南部弁の第一人者でもある「柾谷伸夫」先生が、私の実演が終わった後、こう批評した。
「高山さん!!今回の話は、大人(おとな)にはウケるけど、子ども達には、まるっこウケないね」
私はガクッとうなだれ、声にならない声が出た。
「そったらに、ウケなかったですか?」
「あぁ!!ウケないね。朝の連続ドラマは大人は見ているけど、子どもらは、あの時間は、もう学校へ行ってるからね」
「はぁー。確かに・・・」
私は、ただただ、うなだれるばかりであった。
柾谷先生は、私を叱ったのではない。子ども向けの「昔話」をしたにしろ、その場面設定や登場人物をキチンと子供対象にしたものでなければ「子どもの心」に伝わらないということなのだ。
柾谷先生は、私を励ましたかったのであり、それは、温かい慈愛にあふれた「酷評」だったのだ。
—ということで—
リベンジである。この「さわやか説法」で大人向けの「昔話」として語ってみたくなった。
この「昔話」の物語は、近くの銭湯に行き湯船につかりながら、
「明日のおとぎ会の実演は何の話をしようかなぁ〜?」と考えていた時に突如として、ひらめいたものだった。
フロの中で「想像の翼」が広がり、翼が大空で羽ばたいていた。
—さて 想像の翼版 ねずみの嫁入り —
むか〜し むかし あるところに ネズミのおじやんとネズミのお父(とう)とネズミのお母(かあ)がおりました。
お父ぅとお母ぁには、可愛い可愛い娘がおりました。その娘の名前は「ハナコ」と言います。
ハナコは、ねずみのチュー和女学校で英語を学びました。
「グッドモーニング お父ぅ!!グッド アフタヌーン お母ぁ!!グッドイブニング おじやん!!」そう言っては両手を広げながら挨拶をします。
そんなハナコねずみには、とても好きなネズミの若者がおりました。「ごきげんよう 朝イチ!!」 二人はお互い見つめ合ってはチュー、チュー、ささやき合います。「オラ、こぴっとハナコが好きだあー」
—ところが—
おじやんとガンコな庄屋のねずみが許しません。「ハナコは、この世で一番強いお方の嫁にするのじゃ!!」
おじやんと庄屋さんは口をそろえて言った。
そこで、二人も口をそろえて尋ねた。
「そんじゃ〜。どなた様が、強いんじゃあ?」「そうやのぉ〜。その強いおかたとは・・・。お天道(てんと)さまじゃあ〜」
二人はガクッと肩を落とし、「なんてこったぁ〜。おてんと様には勝てっこねェーじゃ」
二人はチューチュー泣き出してしまった。
お母ぁはハナコが可哀想になり、助けてやりたくなった。
「のう、庄屋様!!この世で一番強いのは、まことにお天道様かのぉー?お雲(くも)さまは、どうじゃ?」
「強いはずのお天道様も、雲におおわれては曇ったり、雨が降ったりもするズラ。」
「なるほど、それじゃハナコの婿(むこ)は、お雲(くも)さんじゃ!!」
「なんのなんの、そのお雲さまも、お風さまが吹くと、こぴっと飛んでいってしまいます。」とお父ぅが言った。「ありゃ〜ぁ。そんじゃ、お風(かぜ)さまが一番強いかのぉ?」
「とんでもない!!お風さまがいくら強く吹いても、ビクともしないのはお壁(かべ)さまじゃあ!!」「なら、お壁さまが一番かの〜」
庄屋さんは、ほとほと弱り果てて聞いた。
そこで、お母ぁは、こことぞばかりに、
「そのお壁さまに、穴を空けたり、道を作ったりするのは、誰だと思いなさるかえ、庄屋様!!」
語気を強めて、お母ぁねずみは二人をかばいながら言った。
「わしら、ねずみであらんしゃかのぉ〜」
—庄屋さんもおじやんも、ハタッと手を打った—
「なるほど、この世で一番強いのは、わしらネズミか。」
「ようし、分かった。では、ハナコの婿は、ねずみの中で一番強いものじゃあ!!」
その話を聞いた若者のネズミ達は、「ワレもワレも」と名乗りを上げてきた。
庄屋の息子ねずみのタケシも「あの鼻タレは、オラの嫁っこにするじゃ」
ところが村の力持ち自慢のねずみ達にはかなわない。
最も強かったのは、石炭王と言われる「嘉納チュー助」というネズミだった。
何たって、石炭に穴を掘り、道を作り、石炭を食っているのだから強いはずである。
あの蒸気機関車のD51(デコイチ)と同じだ。石炭を食べては力強い。
「シュシュッポッポ!!シュシュッポッポ!!」その勢いでくるものだから、他のネズミ達も太刀打ち出来ない!!
「ワシの嫁じゃば、ハナコにするたい。ワシは、蓮根(れんこん)より花の方が好きばい!!」と、九州訛りで言うちょるのだ。「いや、ハナコはオラの嫁にする!!オラは、こぴっと、こぴっとも好いとるじゃい」
朝イチねずみは、飛びかかろうとした。
チュー助ねずみは、せせら笑い「ほほう!!お前なんぞは、ひねりつぶしちょるたい!!」「かかってこんかい!!」
朝イチは渾身の力を込めて挑んだが、たちまち投げ飛ばされた。「どうじゃ。まいったかー」
「いや、まだまだ」何度も飛びかかっていった。
投げ飛ばされても、傷だらけになっても、転んでは起き、投げられてもかかっていく朝イチねずみだった。
—すると—
「朝イチガンバレー。」おじやんが叫んだ。
お父ぅもお母ぁも、そして、あの庄屋ねずみも息子のタケシねずみまでも、一緒になって、「朝イチ、ガンバレよし!!」と声援を送り始めたのである。
「ガンバレ!!ガンバレ!!」
とうとうチュー助ねずみも根を上げてしまった。
「好き合うちょるものは強いたい」
「ワシのまけじゃ!!」
反対していたおじやんも庄屋さんもすっかり心を打たれ、
「お天道様より、お雲さまより、お風さまよりも、お壁さまよりも、もっともっと強いのは、好き合っている同士の朝イチじゃったぁー。」「ハナコは朝イチの嫁っこじゃあーー。」ハナコと朝イチは、晴れて結ばれた。
花子ねずみは両手を広げて、こう言った。「グッド ウエディング朝イチ。」 とね。・・・
めでたし、めでたし。
—ということで—
昔の話っこは、これにて、どっとはらい・・・。
これが「朝の連ドラ版、ねずみの嫁入り」の物語なのである。
ここまで書いてきて私は思った。
これは「想像の翼」ではない。
「妄想の翼」だった。
やっぱり柾谷先生は見抜いていたのだ。トホッホッホッ・・・(T_T)(涙)
どうぞ皆様、お盆でお迎えした御先祖様の前で、皆さんが幼い頃聞いた、お祖父さん、お婆さん、いや、父から母から聞いた「昔話」を、子供ら孫らに語ってみませんか?
きっと子ども達の心に「想像の翼」が広がることでしょう。
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合掌 |
※登場人物の名称は、NHK「花子とアン」を参照にしました。決して原作を傷つけるものでありません。お許し下さい。 |