和尚さんのさわやか説法337
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延

 今月号もまた、「和尚のコロナ陽性騒動記」の続きである。

♬ あの日
  あの時
  あの場所で ♬

 うん?どっかで聞いたことがあるようなフレーズだ?
-そう-
 このフレーズは、1991年、大ヒットしたTVドラマ「東京ラブ・ストーリー」の主題歌、「ラブストーリーは突然に」の1節である。
 小田和正が作詞作曲し自らが歌う、あの甘くて、せつない声が私の耳の奥底に残っていた。

 コロナに感染し、隔離ホテルの一室で軋(きし)む体の痛さに耐えながら、身を縮こませていた時である。
「いつ、どこで、俺は、感染したのだろうか?」と思った瞬間だった。
「あの時だぁ~!!」
 その心当りの場面が脳裡に鮮烈によみがえり、
-それと同時に-
 この「ラブストーリーは突然に」のフレーズも思い浮んだ。

♬ あの日
  あの時
  あの場所で ♬

-あの日は-
 6月28日
 時は、夕方18時11分
 場所は、東京駅
東北新幹線20・21番線ホームだ。
 その日の東京は、ものすごく暑い日であった。
 中野区にある「全国教誨師連盟」の会議を終えるや東北新幹線下り「はやぶさ41号」(18時20分発)に乗車すべく急いだ。
 夕刻、猛暑の中での足早に、汗はダクダクと流れる。
 上りエスカレーターから降りると、私はホームの売店に脱兎の如く駆け込んだ。
 車中で喉を潤し、流れ落ちた汗の分の「水分補給」の為だ。
 缶チューハイに、ワンカップだ。それに砕いた「氷」も買い求めた。(新幹線ホームのキヨスクには氷が売っているのです)
 ついでに、ある物1箱を求め、それはYシャツの胸ポケットに仕舞い込む。
 おつまみは、ホームに上る前に、東京駅地下街グランスタで、焼鳥とお惣菜は買ってある。
 新幹線車中での「1人宴会」だ。

 私は、右手に黒カバンを、左手には、それら1人宴会用の入った小袋を持ち、20・21番線ホーム、こまち号の停車する辺りを目指した。
 そこには、ホーム「喫煙所」がある。
 発車直前、私は無性に煙草が恋しくなったのだ。
 普段は、まるっきり吸う気にもならないが、原稿書きの時か、またお酒を飲んでいる時、あるいは「これから飲むぞぉー」という時にはどうしても「この1本」が欲しくなってしまう。
 その為、車中での「1人宴会」に備えて私は、乗車時刻を気にしながらも向った。

 そこは、密も密だった。密閉された空間は、ごった返しての密集であり、人の肩と肩とが触れんばかりの密接状態だった。
 しかも、その中は煙草の紫煙どころか灰煙、煤煙で充満し空気濃密の「4密・5密」状態であった。
 ドアを開けた時、あまりの凄さに、一瞬たじろいだが、無理やり入り、胸ポケットから取り出して、「その1本」に火を点けるや、一気に吸い込んだ。
-その時-
 頭は一瞬、クラッとなり、胸の奥というか肺の気道が、ビクッと反応した感じがあった。

-きっと-
 あの日、あの時、あの場所で……。
 私は、コロナと出遭ってしまったのだ。
「コロナ・ストーリーは突然に」💧💧💧♡♡
 運命の出逢いなのか?
 自業自得の出会いなのか?
 君は私の胸を焦がし、私の胸に巣くった。
 潜伏期間は必要なくその日の夜には、私は君にお熱を上げた。
 ダイレクトに苦悶するほどに……。

-次の日から-
 隔離ホテルで君と一緒に過ごすことになった。
 私は君と、39℃を越すぐらいに熱い夜を過ごしたけれど……。
 SPO2酸素飽和度が荒くなるほどの胸苦しさを覚えたけれど…。
-しかし-
 先月号で書いたように、湿布薬によるクールミントガム状況を境として、君の熱は冷めたのか、10日後には、あなたは離れていった。
 そのこともあり、私は君との思い出のホテルを後にした。

 君が離れていった後、私は、煙草を吸わなくなった。いや、吸えなくなってしまった。
 あの、おぞましい程の「喫煙所」の光景がフラッシュバックするからだ。
-それと-
 お酒も飲めなくなってしまった。
 特に日本酒だ。あれほど好きだったワンカップも、手をつけたくないくらいにだ。

 君がいなくなってからは、まるっきり嗜好が変って、健康指向になってしまった。
 お茶を好むようになり、抹茶まで飲めるようになった。
 コロナ以前は、お茶よりも日本酒の「おチャケ」だったが、不思議なものである。
 お酒を頂戴する機会はコロナによる自粛により激減したことからも、家の台所で、たまに1杯やろうかなと思うぐらいになった。
 しかも、焼酎のお湯割りとなり、それも焼酎2に対してお湯8割とか、あるいは1対9ぐらいの割り方で、かつマグカップの2杯目で終わる。
 故に、夜、布団に入る時間も必然的に早くなり、20時台とか、19時台の時もある程となった。

-てなことで-
 君に感染しての後遺症は、酒は美味しくなくなり、煙草は吸う気が起きなくなった。
 あれほど、美味しかったのに……。
 あれほど、吸うと気分が高揚したのに……。

 お釈迦様が説かれた『法句経』には、こう述べられている

 さらに又
 スラー酒
 メーラヤ酒に
 ふけりおぼれなば
 彼はこの世にて
 おのれの
 根を掘るものなり
(247)

 スラー酒、メーラヤ酒とは、お釈迦様の時代のインドのお酒なのであろう。
 2500年前にも、お酒があったのだ。
 その酒に、おぼれるならば、この世にあって 自分の 「苦しみの根」を、「苦悩の根」を掘るようなものだと諭されるのである。

 きっと、お釈迦様は私に、そのことを分からせたくて、君に出遭わせたのであろう。
 あの時、あの喫煙所の灰煙に君が隠れ潜んで、私を待っていたことを知っていたからだ。
 「スーラ酒」に手を出し、「メーラヤ煙草」に手を出した私を戒める為に、
「あの日、あの時、あの場所」に向かわせたのだ。

 私は今、君と出遭った以前よりも健康になったような気がしている。
 実に寝起きがいいのだ。
 シャキシャキとなっている。
-でも-
「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」の喩えの如く、そのうち、君というコロナの熱さを忘れ、「ストーリー」すらをも忘れてしまい、また再び自分の「苦しさの根」を掘るかもしれない。
 本当に、私は懲りないアホな和尚であることは間違いない。
 トッホッホッホ💧💧💧
-かくの如く-
 コロナはどこかに隠れ潜んで私達に濃厚接触したがっている。
 どうぞ年末年始に向う時節、くれぐれも御用心御用心……。

合掌

※参照「ラブ・ストーリーは突然に」作詞・作曲/小田和正
※名曲「ラブ・ストーリーは突然に」を題材としましたこと、謹んで御容赦いただきたく存じます。
※『法句経』友松圓諦 講談社学術文庫