和尚さんのさわやか説法353
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延
「ちょっと ちょっと危ないですよ!!」
「このまま眠っていると 湯舟に沈みますよ」
あるいは―、
「和尚さん!!和尚さん!! 起きなさい!!」
なんて、親切な銭湯愛好家達から注意を受ける。
それも、一度や二度ではなく、何度もだ。
-実は-
私は眠っているのではなく、沈思黙考しているのだ。
湯舟にじっくりつかり、目を閉じていると、いろいろなことが考えれる。予定や計画を立てたり、あるいは反省したり、特に、さわやか説法をどうするか考えている時だ。
それを、じっと黙考している姿が、風呂で眠り呆(ほう)けているあわれな和尚に見えるらしい。
「違いますよ!!」
「私は、ピンピンしてますよ!!」
先日も、やはり揺り動かされ注意を受けた。
-その時は-
「森のおとぎ会」で語る昔話を考えていたのだ。
ある構想が浮かび……。
「こりゃ おもしろい!!」と、ストーリーを頭の中でどんどん組み立てていた時のことだ。
その時は、よっぽど顔を風呂に突っ伏しているが如くに、前かがみに頭を垂れていたのであろう。
「ホイ!!」
「死ぬよ!!」……。
その構想とは、日本の昔ばなしにある「わらしべ長者」をアレンジして、いや端的に言うと、パクっての盗作「昔話」である。それも、南部弁バージョンで。
名付けて南部っこ「わらしべ小僧」物語だ。
〽むか~し むかし。
あるところに 1人の しょぼくれた小僧っこがいだずもなす。
この小僧だば、なにをやっても失敗ばかりするのっす。まじめに修行さ励んでもやっぱり、まだ失敗ばかりしてしまうのさ。
ある日、小僧だば、思い切って観音様に願(がん)かけをしたんだど。
「観音さま~。オラさ運をつけてけねべが。」
「もしも運がないようだったら、どごが良い死に場所を見(め)っけで、安らがに死なせでけろ」
小僧だば、祈り続けだのさ。
「観音さま~。どうがどうが。運をさずげでけろ!!」
夜になっても 小僧は祈りを止めないのさ。
とうとう、その小僧だば、ぶっ倒れでしまったずもな。
その時だったのす。
「これ!!小僧や!!」
「起きなさい!!」
観音様が声を掛けたずもェー。
「へぇい!!」
「一体?あなた様は、どなたさまで?」
「お前さんが 祈っていた観音様ですよ」
「はぁ~。そんじゃ、もう、あの世からお迎えが来たんだべが」
「へぇい。そしたら。まいりましょっ!!」
「これこれ。寝呆けている時じゃないですよ」
「一生懸命 修行している お前に運を授けて上げましょう……」
起き上がった小僧に観音様は、こう言われたずもな。
「お前は このお堂を 出るなり すぐに転びます」
「やっぱりなぁ~。ついてねェー。同じだ」
「いやいや それが運のつき始めなのです」
「その時 手につかんだものを大切にして 西の方角へ進むのです」
「よいか ゆめゆめ疑うことなかれですよ」
小僧は、まだ寝呆け半分。
「今のは、夢だったべが?」と呟(つぶや)き起きた。
小僧は、御堂から出た。すると……。もんどりひっくり返って転んだのさ。
夢ではなかったんだよ。
手には、1本の藁(わら)をつかんでいだのさ。
そこさ、虫の「アブ」が飛んできたもんで、小僧は、それを捕まえては、その藁(わら)でしばっておいだずもェ。
「観音様のお告げじゃ、仕方ねェ~なぁ~」
「ワラ1本じゃなくて せめて10円玉とか、ポテトチップスだったらいがったのに…」
「やっぱり、オラには」
「運がねぇがも…」
「したんども、観音様のお告げじゃ、西の方さ向かって歩けとのことじゃ」
小僧は、アブを持って歩き始めたずもェ。
しばらく行くと、赤ん坊を、おぶっている婆(ば)さまさ会ったず。
赤ん坊だば、ぎゃあぎゃあ泣いてぐずっていだのさ。
したんども、小僧が持っていたアブを見た途端、突然泣き止んで、「あぶ あぶ……」と笑ったのっす。
「そうかぁー。これが欲しいのがあ?」
小僧は、アブをつけたまんまの藁(わら)を、その赤ん坊さ手渡したんだど。
赤ん坊が泣き止んだので、御礼だと言って婆(ば)さまは、蜜柑(みかん)3個を差し出したずもな。
「ありがとうさま。せめてこれでも…」
小僧は蜜柑をもらうと、また西の方に向かって歩き始めたずもェ。
そして、その蜜柑を食べようとした時だったずも。
女の人の呻(うめ)き声が聞こえたのさ。
「お嬢さま!!しっかりして……」
お付きの爺さまが苦しんでいる娘っ子の側(そば)で、おろおろしていだずもな。
「一体、どうしあんしたのすか?」
「お嬢様が、急に苦しみ出して、水を欲しがりますのじゃ」
「それは困ったことじゃな」
「そうじゃ!!いいものがある」
小僧は、食べようとした蜜柑を娘に差し出したのす。
本当は、自分で食べたくて、いたわしなかったんども上げたわげだ。爺さまだば喜んで蜜柑を食べさせたんだど。
したっきゃ。娘っ子だば元気になって、めんこい笑い顔になったずもえー。
そんで、御礼にと、上等な反物(たんもの)を小僧に差し出したのす。
「ありがとうございました。この恩は忘れません」
「はは~ん。藁1本が蜜柑になって、その蜜柑3個が、絹三反(きぬさんたん)になった」
「何だか、運がついてきたのかなぁー」
小僧は、心が明るくなって、足取りも軽く、また西の方に向かって歩き始めたずも。
その様子を観音様は天界からずうっと見守っていたのっす。
-その時だった-
「おい!!待て!!小僧!!」
突然、さむらいが呼び止めたのす。
「どうじゃ!!わしの馬と、お前の持っている物と取り替えんか!!」
「えっえー。こりゃぁ死に馬じゃねェかい?」
「いやいや、ちょっと倒れて横になってるだけじゃ」
「さあー。それをワシによこせ!!」
さむらいは、無理やり絹の反物を取り上げたのす。
よっぽど、その反物は高価に見えたごった。
「ワッハッハ。取り替えたぞ。取り替えた。」
小僧は、がっくりしてしまったのす。
「やっぱり、オラはついてねェー」
「運がねェーなぁー」
-でも-
小僧は、その倒れている馬を見捨てることが出来なかったんだど。
運がないと言いながらも、心優しいお小僧さんなのっす。
せっせと馬を介抱してやったずもェ。
この光景を、やはり観音様は天界から見ていて、「さて、これからどうなることやら」とニコッと微笑(ほほえ)まれたずもェ。
この続きは、来月号にて。運が無いままで終わるのか、運がついてくるか、お楽しみに…。
合掌
※参照 まんが日本昔ばなし101「わらしべ長者」講談社刊