和尚さんのさわやか説法359
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延

 和尚の創作「南部昔っこ」物語。第二弾!!続編の始まり始まり。
 したんども、まんず先月号の粗筋(あらすじ)っこから始めましょ。
〽むか~し昔。ある村に、ものすごく、びんぼうな男がいたという。
 どうして びんぼうなのか。それは、その男の家の天井裏に、びんぼう神が住みついでいたからだ。
 そうとも知らず、男は毎日働きもしないで寝てばかりいたが、
 ある日、台所の隅に、「白い蛇」を見つけると可哀想にと思い裏の池に逃がしてやった。
 すると、次の日、めんごい娘っ子が尋ねてきて「私を あなたのお嫁さんにして下さい」とのことだった。
 男は、びっくり驚天。「えっ?いいのかい?」
 その娘っこは働き者で、そうすると、男も一緒になって畑に出て働き始めたのだ。
 月日は経ち年末、大晦日の晩のことである。
 天井裏から泣き声が聞こえた。男が覗いてみると、なんと小汚なしいびんぼう神がいて泣いていたのだ。訳を尋ねると、
「こごに、嫁っこが来てからというもの、ワシの出番がなくなった」
「そうしたら、今晩除夜の鐘が鳴り終わる頃に『福の神』がやってくることになった」と嘆いていたのだ。
 それを聞いた男は憐れに思い、「せっかく長く住みついていたのだから、このままいたらよいでしょ」と言うのだ。嫁っこも「そうです。そうです。」と口を揃えて頷(うなず(づ))いたという。
 嫌われ者のびんぼう神は、こんなに優しくされたのは初めてで、またまた泣き出した。

 それでは、続編の始まり始まり。
〽「トントン……」、「トントン……」
 百と八つの鐘が鳴り終われば、「福の神」がやって来るずもな。
-したっきゃ!!-
 そごサ居だ3人だば音のした戸口の方さ、一斉に目を向けだのす。
 「来(ぎ)だぁー!!」
びんぼう神だば、悲鳴に近い声を上げで後ずさりしたずもェー。

 立ち上がった男だば、戸口さ向って、こうしゃべっだずもな。
「除夜の鐘っこが鳴り止んだこんな夜更けに どちらの方ですが?」
「新年 明けまして おめでとう」
「ガッハッハッハ!!」
「お待たせお待たせ。神の国から やって来ました福の神でありますぞ!!」
「まっこと良い嫁っこをもらったのおー。」
「これ!!男よ!!お前はその嫁っこが来て以来、大層 仕事に励んでいることは、神の国からも見えてだぞおー。然るに、こうして『福』を授けようとして 参ったのじゃ。ガッハッハッハ」
 福の神は、男と嫁っこに とびっきり満面の笑顔を見せだんども、部屋の隅っこサ 縮こまっていた「びんぼう神」が目に入った途端!!
「なんじゃ!!」
「まだ、おったのか。」
「さぁさ!!ワシが神の国から この家に福を授けようと来たんじゃから、お前さんは、サッサと出ていかんかい!!」
「出なんだら、力ずくでも追ん出すぞぉ!!」

-したんども-
 びんぼう神だば、負けずと声を張り上げた。
「なにお~!!やるかぁ~!!」と、福の神さ飛びかかったんだど。
 結果は、火を見るよりも明らかだった。
 ひょろひょろのびんぼう神と、でっぷり太った福の神だもん。
 力の差は歴然だった。
 それを見でいだ男と嫁っこだば、声を揃えで叫んだずもェー。
「あっ!!あぶねぇー」
「びんぼう神、負げるでねェー!!」
 驚き、びっくりこいだのは福の神だった。
「えっ?」
「何で?」
「びんぼう神を応援するんじゃ!!」
「今までは、誰からも歓迎され、喜んで迎えられたのに……。」
 男と嫁っこだば、びんぼう神に加勢して
「よいしょ!!よいしょ!!」
と押し出し始めだんだと。
「わっせい!!わっせい!!」
 ひょろひょろびんぼう神も元気を取り戻しては、3人がかりで、とうとう家の外へ 福の神を押し出してしまったずもな。
 福の神は もんどりひっくり返って押し倒されでしまったんだよ。

「どひゃあー」
 福の神は唖然(あぜん)、呆然(ぼうぜん)。
「ワシは 福の神だよな!!中に居るのが、びんぼう神で……。」
「どういうこっちゃ?」
 福の神は 首をひねりながら男の家を 引きあげていったんだど。
「おかしい。何だかおかしい。福の神が びんぼう神に負けるなんて……?」
「わぁ~い。やったぁー。やったぁ~。」
 びんぼう神と男と、そして嫁っこは、手を取り合って、飛び跳ね喜び合ったずもエー。

 福の神は居ることにはならなかったが、でも、かえってささやかな ちっちゃいちっちゃい幸せな新年を迎えることが出来たんだど。
 それからどいうもの、この男の家っこは、あまり金持ちにはならなかったんども、仲良ぐ幸せにくらしたんだど。

 えっ?
あのびんぼう神はどやしたがって?
-実は-
 天井裏がら、神棚に祀(まつ)られだのす。
「さあサ 福の神が帰ったごどだし、ワだば天井裏サ戻るが」と立ち上がった時だった。
 男だば、こう言っだんだど。
「せっかぐ 降りで来たんだも、台所の神棚サ居だらいがべ」
 嫁っこも手を叩いで
「そうです。そうです。」
「神棚で、私達を見守ってください」
 またまた、びんぼう神だば、大声上げで泣き出したんだど。
「ワだば、今までどごの家っこサ行っても、いっつも天井裏だった」
「それなのに、神棚サまつられるどは……」
「ウェ~ン。うぇ~ん」

 神棚に入る前、びんぼう神だば、嫁っこの耳元で、こう囁いだんだど
「雑巾(ぞうきん)を 当て字で書けば 蔵(くら)と金(かね)。あちら拭(ふ)く拭く こちら拭(ふ)く拭く」とな。
 さあ!!
それからどいうもの、嫁っこだば、毎日毎日 雑巾ば絞(しぼ)っては、あっちを拭いでは、こっちも拭いで、ついでに男の顔までも拭いだのサ。
 したっきゃ!!家中どごもかしごも ピカピカになったずもな。
 汚くよごれだ便所も光る程、拭いで磨いだのす。
 それから鍬だの鎌だの、あらゆるものを拭いでは田畑で働らいだずもな。
 神棚のびんぼう神もじっと見守り、応援したずもェ。
 あちら拭く拭く。こちら福々。となって「拭く」が「福」となったずもな。
 そうなんだよ!!
 びんぼう神の囁いだごとを大事に守ったすけ、やがて蔵が建ち、金っこが少しずづ 蔵サたまってきだずもな。
-そう-
「雑巾(ぞうきん)」が「蔵金(ぞうきん)」さなったずもェー。

 それでも、男ど嫁っこだば つづましぐ仲よく暮したず。
 そやってらうぢに、あの神棚のびんぼう神だば、いつの間にが 福の神になっていだずもな。
 びんぼう神は、実は福の神でもあるんだず。拝んでれば、福の神さなるのサ。嫌ってれば、やっぱりびんぼう神のまんまだ!!
 反対に、福の神を祀ってでも大事に拝まなげれば、びんぼう神になるんだず。
 分かりあんしたが?

  どっとはらい!!

合掌

 ※参照『日本昔ばなし101』講談社発行