和尚さんのさわやか説法169
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延

 「彼はIT時代の寵児(ちょうじ)だ!!」
 「実に面白い男だ。時代の風雲児といってもいい。」
 「いや、単なる乗っ取り屋に過ぎない」
 そんな二分する評価が毎日、TV、新聞を賑わし、私達の話題となっている。
—その男とは—
 去年プロ野球パリーグ五球団化の中で、新規参入の問題が勃発(ぼっぱつ)するや、聞いたこともない会社名と共に突如として現われ、それこそ私たちの目の前に「新規参入」してきた。
—そして—
 今度は、先月2月8日、ニッポン放送の株式を時間外取引という手法を以てして密かに大量取得。当日、それが発表され筆頭株主に躍り出たと宣言すると、またもや俄然、世間の注目を浴びた。
 その会社名は、IT関連企業「ライブドア」。そしてその男とは、通称「ホリエモン」こと、「堀江貴文(ほりえたかふみ)社長」だ。
 IT企業だから「Tシャツ」なのか。その姿一枚で、昨年、日本プロ野球界に殴り込みをかけ、今度は日本放送界に殴り込みをかけてきたのだ。
 私は何故、彼が「ホリエモン」と呼ばれるか、その論拠は解らないが、勝手に想像するに、「ライブドア」ねェ。
 ははぁー。こりゃ、「どこでもドア」だな。
 「どこでもドア」ということは、つまり「ドラエもん」だ。
 なるほど、それでその名前をもじって「ホリエモン」としたんだな。と思った。
 確かにドラえもん的体格であり、目のくりっとした顔かたちも似ているような気がする。
 また、考えるに、インターネットは「どこでもドア」だ。色々な世界にドアを設置できるし、誰でも自由に開閉できる。それも、いつでも、どこでも、誰にもだ。
 まさしく、ドラえもんの「どこでもドア」なのだ。
 そんなホリエモンが「どこでもドア」的にプロ野球界に、放送界に、そのドアを開けようとした。
 それに立ちふさがったのはナベツネ氏こと渡辺恒雄オーナーであり、フジテレビ日枝久(ひえだひさし)会長だった。
 どちらもホリエモンを拒絶し、不快感をあらわにした。
 特に日枝会長との軋轢、また見解の相違、そして、そのバトルは連日テレビを通して私達の前に繰り広げられている。
 私はその光景を見ていて、実に面白く興味深くならざるをえなかった。
 それというのも、どちらに分(ぶ)があるとか、どちらの主張が正しいとか、そういう問題ではなくして、世論を二分しての双方の大喧嘩の「仕方」に興味を感じたのだ。
—それは—
 ある物語を思い出したからであった。
 皆さん御存知の「清水の次郎長(しみずのじろちょう)」。大政(おおまさ)、小政(こまさ)、森の石松(もりのいしまつ)という子分を従え、東海一の侠客(きょうきゃく)と言われた男である。
 彼が実在したのは、江戸末期から明治期であり、この時期、もう一人の大人物と遭遇(そうぐう)するのであった。
 その大人物とは「山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)」その人であった。鉄舟は、無刀流開祖の剣客であり、剣の道とともに禅の修行にも励み「剣禅一如」を提唱し、その奥義(おくぎ)に達したと言われている。
 鉄舟と清水の次郎長との出会いは、鉄舟が静岡県の権大参事(ごんだいさんじ)(現代の副知事)に赴任した時であるという。
—ある日のこと—
 鉄舟が、次郎長を招いての懇談の時こんなことを聞いた。
「お前さんはこれまで幾多の斬り合いで、いつも勝ってきたが、いったいどこでどんな心得(こころえ)で敵に対するんだい?」
 すると次郎長は、こう言ったという。
「そうですねェ。敵と相対(あいたい)した時、静かに自分の刀の切先を、相手の切先に触れてみますんで…。」
「その時、敵の切先が右から触(ふ)れれば左へ、左からなら右へと、風になびくように少しも逆(さか)らわない奴は、恐ろしい相手なので、さっさと、スタコラ逃げてしまいます。」
「ほほう。」鉄舟は頷いた。
「それでしてェ。こちとらの刀に逆らって押し返すような気配の奴だったら、そのとき間髪入れずに踏み込んで、切りつけやす。」と答えたのである。
 鉄舟は思わず彼にこう言った。
「お前さんは剣法は知らないが、自然に剣の極意に達している。」
「見上げたものだ。こりゃあ。度胸免許だ」と、次郎長の喧嘩流儀に感心したという。
—実は—
 私は、この次郎長の喧嘩の仕方を、ライブドアの堀江貴文氏とフジサンケイグループの日枝久会長とのバトルに、あてはめて見ているのである。
 どうもホリエモンの方が右から触れれば左へ、左からなら右へと風になびくような、そんな感じに見えるのである。
 かたや、日枝会長の方は、相手の刀に逆らって押し返すような、そんな喧嘩であるように私には見える。
 ホリエモンの方は、しゃあしゃあとして淡々的であるのに、日枝会長は敵意を丸出しにし、挑発的である。
 今、現在、双方どちらも引く構えはないし、その勝負の行方はわからない。
 ただ私は、今回の両者のバトルを次郎長的視点で見るならば、ライブドアの方が勝負上手、喧嘩上手であると思うし、案外ホリエモンは恐ろしい相手なのかもしれない。
「度胸免許」まではいかないにしても、度胸はあることは確かだ。

 この次郎長流の喧嘩は、私と私の奥様にもあてはまるのだ。
 何か事が勃発するとする。
 その時の奥様は、まさに喧嘩の極意に達したかのように、私の主張を風のなびくが如くに、逆らわずにかわしていく。
 その反面、こちとらは口角泡を飛ばし、ああ言えば、こう言う。
こう言われれば、ああ言い返す。と、感情をむき出して押し返そうと逆襲する。
—ところが—
 結果は、いつも同じである。最初は、こちとらが優位ではあるが途中から形勢が逆転したかと思うと、最後には「どうも、すみません」と白旗を上げるのは、この私なのである。
 今まで、何故だろうと思っていた。「どうして負けてしまうんだろう」と……。

 今回、私はライブドアとフジグループのバトルから、清水の次郎長の喧嘩流儀を取り上げて、この「さわやか説法」を書いてみて、初めてわかったのである。
 やはり、奥様の方が喧嘩上手だと、まさに奥義(おくぎ)に達しておられる方なのだと。
—さて—
 皆さんの御家庭では如何でしょうか?
 今回の説法は、大会社の一流企業家から大親分、大剣豪まで取り出してのことであり、実に壮大なスケールの説法でした。
 そしてまた、終りは自分の夫婦間のこととスケールを小さくしておとどけした次第です。

 尚、本説法の中で登場する企業名や実名を出して掲載していることは、決して他意あることではなく、報道されている範囲のことをもとにしての例話使用であります。
 もとより御本人方を中傷するものではないことを、読者の皆様には御理解いただきたく存じます。

合掌