和尚さんのさわやか説法154
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延

 なんとまあ!!
 今年の阪神タイガースは、ともかく強い!! 強すぎる。
 7月8日、星野監督の故郷、岡山球場でセリーグ史上、最速記録のM(マジック)49が点灯し、優勝へのカウントダウンが始まった。
 シーズン開始前、誰がこんなことを予測しえただろうか。
 球界関係者、評論家、当の阪神ファン、いや選手自身すら、こうなるとは思っていなかっただろう。
 4月、5月連勝し、トップに立っても、大概の評論家も日本全国の野球ファンにしても 「まあ、6月になればダメになり、7月には定位置のBクラスさ!!」と、思っていたはずだ。

—ところが—
 その勢いは、とどまるところを知らず。
 連勝に連勝を重ね、なんと勝率7割2分に達し、2位以下に15ゲーム差。宿敵巨人に至っては18ゲーム差の4位にまで転落させてしまった。(7/12現在)
 奇跡なのだろうか?強運なのであろうか?いや、実力なのだろうか…。
予知できうる世界でないことは確かだった。  —天のみぞ知る—
 でも、あながち「あり得ないことでもない」と思っていた人もいたことはいた。
 元阪神タイガースの名投手であり、現国会議員の江本孟紀氏は、昨年平成14年ペナントレースで「阪神は4位」と予想し、見事的中させた。
 そして平成15年は、「2位」と予想しながらも、こうつけ加えた。「昨年、日本一のチームである巨人が万全ならば、松井が抜けたとしても余りある選手層の巨人が、一枚上である」「しかし、その巨人にもしもの事態があった時には、阪神が1位の目があるという意味を込めて2位ということである」と、語った。
 事実、ジャイアンツは、万全どころか、投手陣の崩壊、特に中継ぎ、救援、ストッパーの潰滅、あるいは打撃陣の故障、離脱という「もしもの事態」が日常的となり、その体たらくは皆様、周知の如くである。

—しかし—
 阪神首位の躍進の鍵は、ただ単に巨人崩壊また他球団低迷ばかりに原因があるわけではなさそうだ。
 実は、その布石を星野監督は、就任要請のときから着実に打っていたというのだ。

 平成13年12月5日、サッチー騒動、脱税事件の余波を受けて、野村監督が引責退団ををし、球界が混沌としていた時、スポーツ紙に衝撃的な見出しが躍った。「阪神新監督に星野仙一氏招聘へ!!」
 日本中の野球ファンがビックリしてしまった。星野といえば、名古屋の顔、中日オンリーの人ぞと誰もが思っていた。絶対ありえないことである。
 事実、中日ファンは激怒し、阪神ファンは拒絶反応を示した。

—だからこそ—
 「田淵をコーチに就任させない限り、監督は引き受けられない」と、断固として球界オーナーである久万俊二郎氏に直談判したという。
 このオーナーと田淵とは犬猿の仲であり、「田淵には、二度と阪神のユニフォームは着せん」といわんばかりであったが、星野は田淵の入閣は、単身乗り込む自分自身の為にも、また阪神再生の為にも重要な布石でもあった。
 説き伏せて説き伏しついにオーナーの首を縦に振らせた。

—そしたまた—
 星野は、前監督の野村野球を高く評価していた。野村が指揮を執った三年間は、阪神にとって決してムダではない。プロとしての野球哲学をダメ虎・阪神に吹き込み、選手に浸透させたのは、他ならぬ野村監督だったからである。
 その土台の上に、星野は剛腕を以って「戦う集団」を築き上げようとしたという。
 小泉首相は「聖域なき構造改革」と所信表明をしたが遅々として進まない。
 それに対して、星野監督はまさに叡智の限りを尽くし「仁義なき構造改革」に着手して推進していった。
 その第一撃が、監督就任の挨拶で、こうのたまわった。「私は、小さいときから阪神ファンでした」居並ぶ球団関係者は、口をアングリ開けたまま何も言えなかったそうだ。
 これが彼流の中日ドラゴンズへの別離宣言であり、自らの阪神への「反応なき意識構造改革」だったに違いないと私は見る。
 その上で選手たちには、「外から見ても阪神の選手は勝つ味を知らん。」「なんとか勝つ意識を持たせねばいかん。意識のないところに成長はない」と断言し、選手構造改革を断行した。
 それが登録選手枠いっぱいの70人から、24人の選手をトレード、あるいは解雇して整理した。
 かつて3分の1の人員整理をにしたという事はプロ野球67年の歴史の中でもるいがないという。
 それを平気でやってのけたのだ。
 しかし、星野はただ切って捨てるということではなく、その選手の適材適所を見い出しトレードするのは、どこの球団がいいか、また解雇するにしても、その将来を考慮してのことだった。

—そのうえで—
 「大胆なチーム攻撃と的確な補強、それと巧みな選手操縦術でチーム内の競争を煽る」
 それが伊良部やウィリアム、下柳の獲得につながり、打線では、昨年、日ハムから片岡を、今年は広島から金本をと説得した。
 またコーチ陣にしても、かつての巨人の野武士たる名投手、西本(聖)を。捕手部門では、広島の達川を閣内に入れ、前述の田淵の就任を絶対条件とした。
 この星野監督の行った人員構造改革が本当の「リストラチェック」なのである。
 一般に言われるリストラとは、コストカットの為の単なる人員整理であるが、そうではなく、人材をうまく整え、補強して会社(チーム)を再構築していくことにある。
 そのリストラの嵐から免れ、今まで野村哲学を叩き込まれた生粋の選手達、例えば、今岡、赤星、浜中、桧山達は、まさに勝ちに飢えた猛虎になっていたのであり、そこに剛将であり、智将である星野の監督としてのイズムが合致しての進撃であった。
 
 この阪神タイガースの構造体改革、再構築そして星野イズムの道程は、禅で言うところの「百不当の一老」であった。
(またまた出ました、高山和尚の野球と仏教をくっつける強力接着剤説法…。 陰の声)
 百不当の一老とは、弓で的を射るが、一向に当たらない。しかし当たらない矢を何本も何本も、師匠や教えに従って無限の不当をいることにより、やがては「真の一当」を射ることになるというのである。
 その一当は、それまでの百不当の力であり百不当の一老(蓄積)であると道元禅師様は私達に教えられる。
 どうであろうか?私は道元禅師の教えを通して、今年の阪神タイガースの強さを分析してみた。
 何たって、この高山和尚は、寅年、 寅の刻生まれの、酒をの飲めば大虎になり、奥様の前では猫(小虎)になる男だからであり、猛虎ファンだからである。
 どうぞ、来るべき阪神優勝の日は、私の地元『小中野の一力寿司』におい出下さい。私が、全員にお酒を大盤振舞い御馳走します。
 なんたって、「百不当の一力」ですからね。

合掌

 
※参考 別冊宝島826号      闘将・星野仙一阪神優勝への戦い 
    週刊アサヒ芸能2915号  闘将・星野仙一「七つの顔を持つ男」